フォルダを開いて、目当てのファイルを探して、使いそうな箇所をコピーして、AIのチャット欄に貼り付ける。AIに頼みごとをする前の、この「下ごしらえ」。準備だけで5分かかります。
私も長いことやっていました。頼む前の人間が、一番働いていました。でも、いまなら断言できます。丁寧に下ごしらえをするほど、頼み方は下手になっていきます。
AIを使い始めたけれど「要約して」から先に進めていない方へ。言い回しのテクニックではなく、渡し方の作法を4つ書きます。
Q01AIへの頼み方が上手い人と、下手な人は何が違うのですか?
違いは言い回しの才能ではなく、渡し方の習慣です。AIで成果が出ないとき、多くの人は「プロンプトが下手だから」と言い回しを疑います。でも上手い人と下手な人を分けているのは、AIに何をどう渡しているか。丁寧に資料を下ごしらえして渡す人ほど、頼み方は下手になっていきます。
渡し方の作法は、次の4つです。
- 本当の目的を渡す(中間物ではなく、結局何がしたいかを頼む)
- 材料は整理せず全部渡す(下ごしらえをやめて、フォルダごと)
- 社内にしかない情報を主戦場にする(ネットにない情報でAIは一番効く)
- 欲しい形は用途で渡す(体裁の細かい指定ではなく、誰に出すかを言う)
どれも言い回しの才能ではなく、渡し方の習慣 です。1つ前提だけ書いておくと、この記事はファイルやフォルダをそのまま渡せるAIを使っている話です。ブラウザのチャット画面に文章を貼り付ける話ではありません。
私は現場のAI導入を仕事にしていて、この渡し方で毎日AIに仕事を頼んで暮らしています。以下、1つずつ実体験で説明します。
Q02「この資料を要約して」という頼み方は、なぜ遠回りなのですか?
要約は、本当の目的のための中間物にすぎないからです。「議事録を300字で要約して」の裏には、たとえば「次に自分が何をすべきか明確にしたい」という本当の目的があります。目的をそのまま渡せば、AIは中間物を飛ばして答えに直行します。
「要約して」は、人間の作業手順をそのままAIに写した頼み方です。要約を読んで、それから自分で考える。その手順ごと渡してしまっています。
本当の目的を渡すと、こうなります。「この議事録を読んで、私が次にやるべきことを優先順位つきで出して」。返ってくるのは要約ではなく、やることリストです。読んで考える工程が消えて、すぐ動けます。
作法はシンプルです。頼む前に1回、 「自分は結局これで何がしたいんだっけ?」 と自問する。それだけで返ってくるものが変わります。

Q03AIに渡す前に、資料やフォルダを整理する必要はありますか?
整理は要りません。関係しそうなファイルを、100個あっても1つのフォルダに入れて、「この直下のどこかに必要な情報があるので、探して使って」と一言添えれば足ります。精度を決めるのは整理の美しさではなく、答えが確実にその中にあるかどうかです。
頼む前の「下ごしらえ」の正体は、探す・開く・抜き出すという作業でした。これは全部やめられます。人間が5分かけて探し当てる1行を、AIは100ファイル全部読んで見つけてきます。探すのは、もう圧倒的にAIの方が速い。
だから人間の仕事は変わりました。きれいに整理することではなく、答えの入ったフォルダを用意して、ありかを一言で教える こと。
逆に言えば、フォルダに入っていないものは見つけられません。答えを確実に入れておく。ここだけは人間の責任です。

Q04AIが一番力を発揮するのは、どんな情報を渡したときですか?
ネットのどこにもない情報、つまり社内の議事録・会議メモ・資料を渡したときです。ネットで調べられることは「最新情報を徹底的に調べて」の一言で足り、AIが自分で調べてきます。でも御社の議事録はネットのどこにもありません。そこから仕事をさせたとき、AIは一番効きます。
私が毎日のようにやっている頼み方を、そのまま書きます。プロジェクトの直近の議事録フォルダを丸ごと参照させて、「この案件がどう進んできたか、順序立てて解説して」。数分で、経緯が時系列に整理されて出てきます。
続けてもう一言、「これをわかりやすい図解にして」。説明資料の図解まで、そのままできあがります。経緯をたどって説明資料を作る、今まで人間が半日かけていた仕事が、頼みごと2回で終わります。
ただ、失敗談を1つ。以前、口頭だけで決めて議事録に残していなかった方針転換があり、AIが作った経緯資料からごっそり抜けたことがあります。記録にない情報は、AIにとって存在しない情報 です。渡せる形で記録を残すことも、渡し方のうちだと学びました。

Q05報告書や資料の体裁は、どこまで細かく指定すればいいですか?
細かい指定は要りません。「社内展開用のパワポだから、シンプルでいい」「顧客に提出するから、ビジネスライクに」のように、誰に出すかという用途を一言で渡せば、体裁の調整はAIの仕事になります。
フォントや配色を細かく指示するより、用途を言う方が早くて正確です。出す相手が決まれば、ふさわしい体裁はAIが判断できます。
ここまでの4つの作法は、どれも今日から変えられる習慣です。次にAIへ頼みごとをするとき、「自分は結局これで何がしたいんだっけ?」と自問してから頼んでみてください。それだけで、返ってくるものが変わります。
よくある質問(FAQ)
- Q. プロンプトのテンプレート集や命令文の型を覚える必要はありますか?
- A. 要りません。頼み方の上手い下手を分けるのは言い回しではなく渡し方の習慣なので、テンプレートを暗記しても渡し方が変わらなければ結果は変わりません。覚えるのは、頼む前の自問「自分は結局これで何がしたいんだっけ?」の1つで十分です。
- Q. この頼み方は、ブラウザの無料チャットでもできますか?
- A. 一部はできます。「本当の目的を渡す」「用途で渡す」は無料チャットでも今日から使えます。ただし「材料は整理せず全部渡す」は、ファイルやフォルダを直接読めるAIが前提です。貼り付けの往復が残る限り、下ごしらえは消えません。
- Q. AIへの頼みごとは、1回で全部伝えないとダメですか?
- A. 1回で完璧に頼む必要はありません。会話のように重ねれば大丈夫です。実際、経緯の説明資料づくりでは「順序立てて解説して」のあとに「これをわかりやすい図解にして」と続ける、頼みごと2回のやり方をしています。
- Q. 部下や社員にAIの頼み方を教えるには、何から教えればいいですか?
- A. 4つの作法(本当の目的を渡す・材料は整理せず全部渡す・社内にしかない情報を主戦場にする・欲しい形は用途で渡す)は、そのまま部下に教えられる型です。言い回しの研修は要りません。渡し方の習慣づけから始めるのが近道です。
AUTHOR

黛 政隆(まゆずみ まさたか)
株式会社GembaShift 代表取締役CEO
エンジニア歴20年、PM経験50件超。生成AIの導入を、現場に入って一緒に組む仕事をしています。 この記事の内容は、著者自身が実際に手を動かして業務で検証した実体験に基づいています。