「AIで回しているだけなら、誰でもできるのでは?」──160億トークンを使って3ヶ月でAIの開発ループを回し切り、6,000万円規模の開発を1人で置き換えた話をすると、この問いが必ず返ってきます。むしろ、浮かぶのが正しい問いだと思います。
この記事では、正面から答えます。答えは── 断じて、無理 でした。誰かを見下すための記事ではありません。なぜ私にはできたのか、自分の中身を開いて解剖してみせる記事です(2026年8月時点の実体験です)。
AI人材を社内で育てるか、外の力を借りるか。迷っている経営者の方に、特に読んでほしい内容です。
Q01AIで開発を回すだけなら、誰でもできるのですか?
160億トークンの開発ループを3ヶ月回し切った私の答えは「断じて無理」でした。ただし線引きが要ります。日常の業務でAIに仕事を頼むこと自体は、誰でも今日から始められます。誰でもは無理だと言っているのは、研究開発をAIで回し切るという、別のレイヤーの話です。
「AIで回すだけ」に見えるのは、水面から出ている一角だけでした。振り返って自分を解剖したら、水面の下に4つの層が沈んでいました。

- 技術──開発のループをAIに任せられる形に組む力
- ドメイン知識──対象の業務を深く知っていること
- 精神力──理屈の追いつかない改善の海で回し続ける力
- 好奇心──その精神力の燃料
どれか1つではありません。この掛け算が全部そろって、はじめて160億トークンは成果になりました 。
Q02AIをフル活用して成果を出す人には、何が必要ですか?
私の場合、ループを組む技術に約3.5年、対象業務を知るのに10年以上かかっています。技術は、ChatGPTに初めて触れた日から自分の時間のほぼすべてをAI駆動開発に注ぎ続けた積み上げ。ドメイン知識は、AIに考えさせる場所と型どおりに整えさせる場所の線を引くために不可欠でした。
1層目の技術は、一夜漬けでは身につきません。あの3ヶ月は、約3.5年の積み上げの上に乗っていました。
2層目のドメイン知識が効くのは、線の引き方です。AIには、考えさせる場所と、型どおりに整えさせる場所があります。この線の引き方で出来上がりの精度が大きく変わり、どこに線を引くかは業務を知らないと決められません。私は今回の業界に10年以上、深く関わってきました。だから線が引けた。技術だけでは、この線は引けませんでした 。
そして4層目の好奇心。種明かしをすると、私はこの開発にとんでもなくワクワクしていました。目の前の課題を全部解きたい──この好奇心が、3ヶ月のループを回す燃料でした。義務感は3ヶ月もちません。好奇心は、勝手に湧き続けてくれます。
Q03AIの改善策が理解できないとき、どう進めればいいのですか?
「なぜ効くのか」の理解は後回しにして、再現するかどうかだけを自分のテストで白黒つけて先に進みます。全部を理解してから進もうとしていたら、3ヶ月では終わりませんでした。
正直に書くと、今のAIの能力は凄まじくて、エンジニアの私でさえ「この改善方法で、なぜ効果が出るの?」と首をかしげる内容が大量に出てきました。理屈が追いつかない改善の海の中でループをコントロールし続けるのは、想像よりずっと苦しい時間でした。
それでも折れなかった理由は2つあります。1つは、「この精度には絶対に届く」という経験に裏打ちされた確信。もう1つは、網を先に張っておいたことです。
- どこで間違いに気づくか、を先に決めておく
- どこまでの誤差なら許すか、を先に決めておく
AIの間違いはどうしても出ます。網があるから、AIの不思議な動きに一喜一憂せず、回し続けられました。
Q04AI時代のソフトウェア開発は、チームの時代ではなくなるのですか?
深い知識と経験を持つ人がAIをフル活用すると、とんでもないモノができる時代になりました。エンジニアリングはもうチームの時代じゃない。強い個体が、素早く最高品質のものを作る時代に入った──というのが私の実感です。ただし、大人数でしか作れないものも、もちろんあります。

根拠は実測です。人間のチームで作ればおおよそ50人月の開発を、1人・約3人月のディレクションで置き換えました。この差を生んだのは、4つの層を持つ個人がAIをフル活用したことです。
チームで作る現場を否定したいわけではありません。それでも、深い知識と経験を持つ一人にAIを渡したときの出力は、これまでの常識と別次元になっています。
Q05AI人材は、社内で育てるのと外から連れてくるのと、どちらが速いですか?
外から連れてくるほうが圧倒的に速い、というのが私の答えです。自前で育てる場合、私のケースで約3.5年かかっています。すでに回し切った人間を道具ごと現場に入れて、現場の一人が「これがないと業務ができない」と言う状態を作りに行くのが最短です。
まず、社内を見回して「AIに自分の全ての時間を投下している人」がいるか、探してみてください。いれば、その人が種になります。いなければ、外から連れてくるのが最短です。
連れてくる中身は、人と道具のセットです。私が回し切って作ったのはGembaShiftの社内ナレッジAIで、大手企業で受け入れられている理由は、ドメイン知識の層がそのまま設計に出ているからだと思っています。回答に必ず根拠となる社内文書を示し、根拠がなければ答えない。言葉の揺らぎと文書をまたいだ関連性を補完してから答えに使う。利用が広がっても継続コストが増えない。技術だけでも、知識だけでも、この3つは揃いません 。
よくある質問(FAQ)
- Q. 「強い個体」とは、どういう意味ですか?
- A. 深い知識と経験を持ち、AIをフル活用して素早く最高品質のものを作れる個人のことです。技術・ドメイン知識・精神力・好奇心の4つの掛け算がそろった人を、この記事ではそう呼んでいます。
- Q. 好奇心は、なぜそこまで重要なのですか?
- A. 義務感は3ヶ月もたないからです。序盤で顧客の期待値にはある程度届いていたので、仕事の責任感だけだったら、たぶんどこかで折れていたと思います。目の前の課題を全部解きたいという好奇心は勝手に湧き続け、顧客の期待を大幅に上回る成果の源泉になります。
- Q. 技術力があれば、業務知識は要らないのではないですか?
- A. 要ります。AIには考えさせる場所と型どおりに整えさせる場所があり、この線の引き方で出来上がりの精度が大きく変わります。どこに線を引くかは業務を知らないと決められません。10年以上関わった業界だったから線が引けた、というのが私の実感で、技術だけではこの線は引けませんでした。
- Q. 日常業務でAIを使うのにも、4つの層が必要ですか?
- A. いいえ。日常の業務でAIに仕事を頼むこと自体は、誰でも今日から始められます。4つの層が要るのは、研究開発をAIで回し切るという別のレイヤーの話です。この線引きを混同しないことが大切です。
AUTHOR

黛 政隆(まゆずみ まさたか)
株式会社GembaShift 代表取締役CEO
エンジニア歴20年、PM経験50件超。生成AIの導入を、現場に入って一緒に組む仕事をしています。 この記事の内容は、著者自身が実際に手を動かして業務で検証した実体験に基づいています。