「この業務を、毎回同じ結果になるやり方で解けないか検討して、実装してください」──これが、私がAIに毎回投げている依頼の一行です。「この業務をAIにやらせてください」ではありません。
ホワイトボードに業務名が縦に並んで、横に「AI化できる?」と書き足されている会議室を、いくつも見てきました。挙がる候補はたいてい間違っていません。それでも一年経って何も乗らないのは、探している対象がそもそもずれているからです。
AIを入れる先を探すのではなく、その業務の解き方そのものをAIに作らせる。この記事では、依頼文と一緒に渡している材料まで全部公開します。
Q01業務の自動化は、AIにどんな言葉で依頼すればいいのですか?
「この業務を、毎回同じ結果になるやり方で解けないか検討して、実装してください」の一行です。さらに2つ続けます。「人の判断に見えている部分も、条件に落とせないか一つずつ検討してください」「どうしても条件に落ちないところだけ、AIの出番として残してください」。そのままコピーして使えます。
- この業務を、毎回同じ結果になるやり方で解けないか検討して、実装してください
- 人の判断に見えている部分も、条件に落とせないか一つずつ検討してください
- どうしても条件に落ちないところだけ、AIの出番として残してください
「AIにやらせる」から「やり方を作らせる」へ。頼み方の一行を変えるだけで、返ってくるものが変わります。
Q02依頼と一緒に、AIへ何を渡せばいいのですか?
材料は4点だけです。①いまの手順(誰が・何を・どの順でやっているか)②データの全項目(実際の列名と帳票名のまま)③守るべき条件と例外(締め・優先順位・禁止事項、そして例外的に誰かが手で直しているケース)④外せない制約(法令・監査で残す記録・見せてはいけない範囲・触ってはいけない既存システム)。
②で大事なのは、要約しないことです。「受注データ一式」とまとめた瞬間、AIは組み替えるための材料を失います。実際の列名と帳票名のまま渡します。
④は発注する側の作法だと考えています。どうせ後から聞かれることを、先に言っておく。それだけです。

Q03いまの手順書を、そのまま渡してはいけないのですか?
手順を渡すと、手順が返ってきます。AIは人の段取りを忠実に再現しようとするため、転記も確認も突き合わせもそのまま残り、速くはなっても工程は一つも減りません。目的と条件のほうを渡すと、途中の工程がまるごと消えます。
極端な例があります。大手の研究チームが2025年に公開した仕組みでは、AIに答えではなくプログラムを書かせて、実行結果の良いものだけを残しました。その結果、56年間破られていなかった行列計算の手順が更新されたとのことです。
AIに解かせるのではなく、解き方を書かせる。いまの世代でいちばん効くのは、この向きだと考えています。

Q04渡す材料のうち、いちばん書き落とされやすいのは何ですか?
③の例外です。「例外的に誰かが手で直している処理、いま何件ありますか」──ここを渡し忘れると、試したときは動いたのに本番に載らない、という結果になります。本番で初めて、渡していなかったパターンにAIが出会っているだけだからです。
著者の失敗談もひとつ。記事に載せる画像を作る自動化で、速くしたくて同じ処理を並列で走らせたところ、同じ画像が何枚もできあがりました。AIの調子が落ちたと決めつけて指示の文面を何度も書き直しましたが、原因は裏で処理が衝突していただけ。実行の順番の話でした。
そこでAIに毎回うまくやらせるのをやめて、「1枚ずつ順番に実行する」という決まりとして固定しました。判断だと思っていたものが、調べたらただの手順だった。直すべきは指示ではなく、段取りのほうでした。
Q05この頼み方で作った仕組みは、何が良いのですか?
返ってくるものが「決まった手順で回る部分」と「AIでないと無理な部分」に割れ、残った分にだけAIを置けます。決まった手順は動かすたびにAIを呼ばないため、動かす回数が10倍になっても請求額は増えません。同じ入力なら同じ答えが出るので、監査や品質保証とも相性の良い作り方です。
AIは呼ぶたびに課金されます(トークンという従量課金の単位で計算されます)。業務の柱にAIを据えると、費用は件数 × 人数 × 毎日で伸びていきます。仕組みに落とした部分は、その伸びから外れます。
米国のAI導入支援会社 Varick Agents が公開している財務部門の事例でも、月次決算が18〜22日から7〜9日に、決算時の買掛の例外処理が600〜800件から50件未満に減ったとのことです(出典:varickagents.com の財務事例ページ)。

よくある質問(FAQ)
- Q. どの業務から試すべきですか?
- A. 対象を一つだけ選んでください。止まっている案件でかまいません。4点を書き出して依頼の一行をつけて投げると、その業務のうちどこまでがAIなしで回るのかが一目で分かります。
- Q. 予算やツール選定は、いつ検討すべきですか?
- A. 4点を投げて返ってきたものを見てからで遅くありません。どこまでが決まった手順で回り、どこからがAIの担当なのかが分かってから、予算の話をします。
- Q. 条件に落ちなかった部分は、どうすればいいですか?
- A. そこにだけAIを置きます。あわせて、条件に落ちなかった範囲は「ここは毎回同じにはなりません」と関係者に先に握っておける範囲になります。期待値の調整が事前にできるのも、この頼み方の利点です。
- Q. なぜ「毎回同じ結果」にこだわるのですか?
- A. 業務は、同じことを頼んだら毎回同じ結果が出るほうがいいからです。同じ入力なら同じ答えが出る仕組みは、なぜそうなったかを説明できるため、監査や品質保証との相性も良くなります。
AUTHOR

黛 政隆(まゆずみ まさたか)
株式会社GembaShift 代表取締役CEO
エンジニア歴20年、PM経験50件超。生成AIの導入を、現場に入って一緒に組む仕事をしています。 この記事の内容は、著者自身が実際に手を動かして業務で検証した実体験に基づいています。