AIの会社をやっている私が言うのも変ですが、AIはただの道具です。道具そのものに、たいした価値はありません。価値が上がるのは、その道具を使いこなした側の会社のほうです。
ところが多くの会社は、どの道具がいいかの品定めのところで止まっています。比較表だけが増えていく。肝心の 「うちのどの仕事なら渡せるのか」 が、決まらないまま。
そして検討の最後には、だいたいこの一言が出ます。「うちは例外が多いので、AIは無理です」──この記事では、この一言だけを分解します。それ以外の話はしません。
Q01「うちは例外が多いからAIは無理」は正しいですか?
大半のケースで、正しくありません。例外に見えているものを書き出すと、その多くは「そのつど条件を見て決めているのに、その条件がどこにも書かれていないもの」です。条件があるなら、それはもうルールの側です。
この一言は、たいてい現場でいちばん詳しい人の口から出ます。だから、誰も反論できない。そして言っている本人は、まったく正直です。盛ってもいません。ただ、書き出したことが一度もないだけでした。
本当に文脈で決めているのは、その中のごく一部です。
つまり「例外が多い」は、件数の話ではありませんでした。まだ書いていない、という状態の話です。

Q02AIに渡せる業務は、どう仕分けますか?
使う質問は2つだけです。①同じ材料を渡したとき、別の人も半年後の自分も同じ結論に着くか──着くなら、それは判断ではなくまだ言葉にしていないルールです。②正解が一つに決まらないか──そうなら、そこが本当の文脈判断で、AIを残す側です。
| 仕分けの質問 | YESの場合の正体 | 行き先 |
|---|---|---|
| 同じ材料を渡したとき、別の人も半年後の自分も同じ結論に着くか | 判断ではなく、まだ言葉にしていないルール | 条件に落とす(仕組みの側) |
| 正解が一つに決まらないか(複数の答えがあり得て、どれも間違いではないか) | 本当の文脈判断 | AIを残す側 |
ひとつだけ、先に。難しいかどうかは、仕分けの基準になりません。難しく見える仕事ほど、条件の数が多いだけでした。

Q03著者自身の業務では、どうだったのですか?
私自身が、自分の業務をいちばん読み違えていました。図解を記事のどこに入れるかは「センスの話」だと思っていたのに、書き出したら「見出しの前か、後ろか」という位置の条件でした。最後までルールに落ちなかったのは、記事の中身を書くことと、SNSに出す文面を考えることの2つだけです。
私はこのブログの運用も、サービスの開発も、全部自分で組んで回しています。だから自分の業務のことは、さすがに分かっているつもりでした。
そこで気づいたことがあります。週に1回の仕事には手順書がある。毎日の仕事にはない。書く必要が、一度もなかったからです。だから棚卸しは、毎日やっている工程から始めると当たりが多い。
ルールに落ちなかった2つは、どちらも正解が一つに決まりません。同じ材料から、別の書き方がいくつも成立します。だからそこは、今もAIに任せています。
順番が、逆だったわけです。 「人にしかできない」と言われている仕事のほうが、AIの担当でした 。この線引きが実用になったのは、わりと最近です。言葉にした条件を、そのまま動くものに変換できるようになったから。
Q04「判断基準を文書化してください」で進まないのは、なぜですか?
理由は2つです。本人が何を手がかりに決めているか自覚していないから。そして、書くこと自体が本業の邪魔になるからです。書かせるのをやめて、迷ったケースを話してもらい、条件表を作る作業はAIにやらせます。
- 判断している本人に、先週いちばん迷ったケースを10分だけ話してもらう
- その会話をそのままAIに渡し、「この人が何を根拠に決めているかを、条件の形で書き出して」と頼む
- 返ってきた条件の候補を、過去の実績に何件か通して照らす
- 合わないものが出たら、そこが本当の例外の正体
コツは、決めた結果ではなく、迷ったケースを選ぶこと。条件は、迷いの中にしか入っていません。すんなり決まった話からは、何も出てきません。
話すのも面倒、という場合の裏技もあります。AIに質問させればいい。「私に質問して、決め方を聞き出してから条件表にしてください」と頼むだけです。現場の人は答えるだけで済むので、書く作業がまるごと消えます。
Q05自社だけで仕分けると、何が起きますか?
線が歪みます。毎日やっている人ほど「これは自分にしかできない」と自分の判断を大きく見積もるためです。能力や頑固さの問題ではなく、毎日やっていて書く必要がなかったという構造の話です。俯瞰する人が外から質問を1つ入れるだけで、動き出すことが多い。
ここまで書いておいて何ですが、私は自分の業務の仕分けを、自分で読み違えていました。慣れているほど、自分の判断を大きく見積もります。
明日にでも試せることが、ひとつあります。毎日回している業務で決めている本人に、「先週いちばん迷ったケース」を話してもらう。録っておく。それだけで、材料は揃います。
Q06結局、AI導入で差がつくのはどこですか?
道具の性能では、たぶん差はつきません。差がつくのは、その道具に何を渡せるのかを、自分で仕分けられた会社のほうです。「AI導入」の意味を一つに固定しないこと自体が、強みになります。
AIは道具にすぎません。決めた会社の数だけ、正解があっていい。
よくある質問(FAQ)
- Q. 例外が多い業務は、AI化・自動化できないのですか?
- A. 大半はできます。「例外」に見えているものの多くは、そのつど条件を見て決めているのに条件がどこにも書かれていないだけの、まだ言葉にしていないルールです。条件を書き出せば仕組みに落とせます。本当に文脈で決めているのは、ごく一部です。
- Q. 業務をAIに渡せるか仕分ける2つの質問とは何ですか?
- A. ①同じ材料を渡したとき、別の人も半年後の自分も同じ結論に着くか(着くならルール側で、条件に落とせる)。②正解が一つに決まらないか(そうなら本当の文脈判断で、AIを残す側)。難しいかどうかは仕分けの基準になりません。
- Q. 現場に「判断基準を文書化してください」と頼むべきですか?
- A. 頼まないほうが進みます。本人が手がかりを自覚しておらず、書く作業が本業の邪魔になるためです。代わりに、先週いちばん迷ったケースを10分話してもらい、その会話をAIに渡して条件表を作らせます。AIに質問させて聞き出す方法もあります。
- Q. 業務の棚卸しは、どこから始めるべきですか?
- A. 毎日やっている工程からです。週に1回の仕事には手順書がある一方、毎日の仕事には手順書がないことが多く(書く必要が一度もなかったため)、言葉にされていないルールが残っている可能性が高いからです。
- Q. AIツールの比較検討から始めるべきですか?
- A. 道具の品定めから始めると、比較表だけが増えて止まりがちです。道具の性能では差がつきません。先に「うちのどの仕事なら渡せるのか」を仕分けるところから始めることをおすすめします。
AUTHOR

黛 政隆(まゆずみ まさたか)
株式会社GembaShift 代表取締役CEO
エンジニア歴20年、PM経験50件超。生成AIの導入を、現場に入って一緒に組む仕事をしています。 この記事の内容は、著者自身が実際に手を動かして業務で検証した実体験に基づいています。