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AI推進室はなぜ機能しないのか?──序盤に間違えやすい3点と「事業部化」という答え

公開日 最終更新日 著者: 黛 政隆(株式会社GembaShift 代表取締役)

AI推進室を作って、半年経った。担当者は動いている。勉強会も開催している。社長報告も毎月上がってくる。でも、なぜか「現場で使われている」という実感がない──そんな会社は、たくさんあります。

私は他社のAI推進室の中身を、外から見せてもらう機会があります。止まっている推進室には、共通する3つの間違いが入っていました。

そして、進んでいる会社は、推進室を「ある形」に変えています。順番に書きます。

Q01AI推進室を作ったのに進まないのは、なぜですか?

止まっている推進室には、かなり高い確率で3つの間違いのうち1つ以上が入っています。序盤KPIを「コスト削減」に置いている、活動が勉強会と報告書で終わっている、若手だけで作られている──の3つです。

止まっている推進室の3つの間違いの図
止まっている推進室の3つの間違いの図

どれも一見まともに見える設計です。だからこそ気づかれないまま半年が過ぎます。ひとつずつ見ていきます。

Q02AI推進室の序盤KPIは、何に置くべきですか?

お金ではなく、現場の利用率です。序盤にコスト削減を達成するのは構造的に無理で、数字が作れない担当者は報告書だけを分厚くしていきます。毎週何人が触ったか・何人がフィードバックを返したか・「これ便利だった」が何件積み上がったかを序盤の指標にします。

AIを入れた直後の業務は、まだ精度も使い勝手も不安定です。そこに「いくらコストが減ったか」を毎月聞かれると、推進室は現場ではなく報告書に向かって働き始めます。

  • どれだけの現場メンバーが、毎週AIを触ったか
  • 何人がフィードバックを返してきたか
  • 何件の「これ便利だった」が積み上がったか

最終的なKPIがお金の解決であること自体は、まったく否定しません。コスト削減のKPIは、半年後に置きます。序盤の指標を利用率に変えると、担当者がやるべきことがぜんぶ変わります。

Q03推進室の活動が「勉強会」と「報告」だけになるのは、なぜ問題ですか?

推進室の本当の仕事は、現場で実際にAIを動かしてフィードバックを回すことだからです。勉強会と経営層への進捗報告はどちらも必要ですが、それだけではAI推進は進みません。現場に持っていくものは、汚くて構いません。

精度が出ていなくてもいい。UIなんてなくていい。ブラウザでChatGPTやClaudeを直接叩く形でも構いません。とにかく現場の人に「これ、使ってみてください」と渡すところから始めます。

最初の数日は「使えない」「精度が悪い」と言われます。それでいいのです。そのフィードバックさえもらえれば、なぜ使えないのかが分かり、改善のサイクルに入れます。

Q04AI推進室の責任者は、若手ではだめですか?

だめです。若手だけの推進室は、部門間の調整・予算の決裁・失敗した時の判断・キーマンを動かす交渉が権限の外側にあり、毎回「持ち帰って役員に確認します」になってスピードが致命的に落ちます。責任者は役員クラス、実働は若手・中堅が正解です。

「AIに詳しそうな若手3人で推進室を作りました」は、一見スマートに見えて、ほぼ確実に止まるパターンです。理由は簡単で、若手だけだと責任を取れないからです。

  • 部門間の調整
  • 予算の決裁
  • 失敗した時の判断
  • キーマンを動かす交渉

この4つは若手の権限の外側にあります。責任者として経営の良し悪しに責任を負う役員が入り、その下で若手・中堅が実働する形にしてください。

Q05進んでいる会社は、推進室をどんな形にしていますか?

「室」のままにせず、独立したひとつの事業部として切り出しています。役員クラスが責任者・独立した意思決定権・失敗を許容する設計・小さい業務や小さい既存事業部から始める、の4点がそろった体制です。

推進室と事業部の違いの図
推進室と事業部の違いの図

推進室の本当の役割をひとことで言うと、高速フィードバックの仕組みを現場で回し続けること です。汚くていいから現場で使う→「ここがダメ」をもらう→すぐ直す→また現場に戻す。これを週1回くらいの速度で回します。

生成AIの登場で、このサイクルの速度が桁違いに速くなりました。従来のDXでは、フィードバックの反映にエンジニアの工数・設計見直し・テスト・再リリースで数ヶ月かかっていました。生成AIなら、プロンプトを直すだけで業務に合わせた挙動を変えられる場面がたくさんあります。今が推進室を回す絶好のタイミングです。

Q06止まっている推進室を動かすには、何から始めればいいですか?

順番に3つです。序盤KPIを「現場の利用率」に変える、責任者を役員クラスに置く、しがらみの少ない既存事業部を1つ選んで小さな成功を作る。この3つだけで、止まっている推進室は動き始めます。

  1. 推進室の序盤KPIを「現場の利用率」に変える(コスト削減KPIは半年後に置く)
  2. 推進室の責任者を、役員クラスに置く(実働は若手・中堅のままでよい)
  3. しがらみの少ない既存事業部を1つ選び、AI活用を許容してもらって小さな成功を作る

いきなり全社展開はしません。小さな事業部で実績を作ってから横展開する。ここが、いちばん地味で、いちばん大事な部分です。

よくある質問(FAQ)

Q. 現場に出すAIは、完成度が低くてもいいのですか?
A. いいです。精度が出ていなくても、UIがなくても、ブラウザで生成AIを直接叩く形でも構いません。目的は完成品を届けることではなく、現場からフィードバックを回収して改善サイクルに入ることだからです。
Q. 現場に「使いたい」と思ってもらうには、何が必要ですか?
A. 「先週よりちょっと良くなった」「来週はもっと使えそうだ」という体感を週単位で渡すことです。これができると、現場は言われなくても自分から使うようになります。「使ってください」と言うのではなく「使いたい」と思ってもらうのが、推進室の勝ち筋です。
Q. 推進室の全社展開は、いつすべきですか?
A. 小さな既存事業部で実績ができたあとです。最初からの全社展開はしがらみが多く止まりやすいため、しがらみの少ない小さな事業部でAI活用を許容してもらい、そこで成功を作ってから横展開します。
Q. 失敗を許容する設計とは、具体的にどういうことですか?
A. 「最初はうまくいかないのが当たり前」という前提を、社長が共有していることです。この前提がないと、1回の失敗で推進室が縮こまり、挑戦が止まります。

AUTHOR

株式会社GembaShift 代表取締役CEO 黛 政隆

黛 政隆(まゆずみ まさたか)

株式会社GembaShift 代表取締役CEO

エンジニア歴20年、PM経験50件超。生成AIの導入を、現場に入って一緒に組む仕事をしています。 この記事の内容は、著者自身が実際に手を動かして業務で検証した実体験に基づいています。

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