金曜の夕方、来週の商談に向けて50社分の提案書を準備する。A社向けの資料をB社用に少し直して、C社用にまた直して──気づいたら全部同じような提案書になっている。
「本当は1社1社カスタマイズしたい」。この理想は、これまでエースの残業でしか実現できませんでした。生成AIは、これを個人のスキルではなく仕組みに変えます。
BtoB営業のマネージャー・担当者の方に向けて、提案書づくりの工程分解と、私が実際に営業チームで設計して出た数字を紹介します。
Q01顧客ごとにカスタマイズした提案書を、生成AIで量産できますか?
できます。生成AIは顧客のWebサイト・決算情報・過去の商談履歴といった文脈を読み取り、テンプレートの穴埋めではなく中身から提案書を組み立てられます。私が工程分解アプローチで設計した営業チームでは、1本あたりの作成時間が平均3時間から約1時間(約60%削減)になりました。
従来の営業支援ツールは、テンプレートに会社名や業界を差し替える程度の穴埋め式が多数でした。生成AIとの違いは、相手の文脈を読んで 提案の中身から組み立てられる ことです。
「一人ひとりに合わせた提案」が、個人のスキルではなく仕組みで実現できる。エースの営業が3時間かければ作れた提案書を、チーム全員が出せるようになる話です。
Q02営業は資料作成に、どれだけ時間を使っていますか?
スマートスライドが2021年に営業担当400名へ実施した調査では、最も時間を使う業務は資料作成で全体の30.5%、年間619時間(毎日1.5時間以上)に相当します。金額換算では1人あたり年間約167万円のコストです。
- 資料作成は営業業務の30.5%=年間619時間=毎日1.5時間以上(スマートスライド・2021年調査)
- 金額換算で1人あたり年間約167万円のコスト
- 営業担当の31.4%が「もっとフォローアップに時間を使いたい」と回答(HubSpot・2024年の日本の営業に関する意識・実態調査)
提案書を丁寧に作りたいが時間がない。だからテンプレを使い回す。すると提案の刺さり方が弱くなり、受注率が上がらないから案件を増やし、さらに時間がなくなる──この悪循環を断つのが、仕組み化の目的です。
Q03提案書作成の、どの工程にAIを使えばいいですか?
4工程すべてに使えます。顧客情報の収集、課題分析・仮説立て、提案骨子の作成、文面生成・トーン調整です。一度に全部やらせるより、工程ごとにやらせるほうが精度が高くなります。事前調査は1社あたり1時間かかっていたものが5分程度に短縮できます。
提案書が速い人は「文章がうまい」のではなく、作業を工程に分けています。料理と同じで、買い出し → 下ごしらえ → 調理 → 盛り付けの順です。
- 顧客情報の収集(買い出し):業界動向・直近の決算・プレスリリース・取引履歴を集める。人間で1社1時間 → AIで5分程度
- 課題分析・仮説立て(下ごしらえ):集めた情報から「この会社が困っていそうなこと」を整理する
- 提案骨子の作成(調理):仮説に基づいて「何を・どう提案するか」の骨格を組む
- 文面生成・トーン調整(盛り付け):相手の社風や担当者に合わせて言い回しを整える

大事なのは「AIに丸投げ」ではないことです。一度に全部やらせるより、工程ごとにやらせるほうが精度が高い ──これは何回試しても同じ結論になります。
Q04エース営業の提案ノウハウは、AIで再現できますか?
かなり再現できます。過去に受注につながった提案書を2〜3本AIに見せるだけで、トーン・構成・課題の拾い方から言い回しのクセまで真似た提案書を生成します。ただし到達点は80点で、商談で感じ取った担当者の本音までは再現できません。残り20点を人間が磨く前提で使うのが現実的です。
実際に、ある会社の受注提案書を3本読み込ませて新規顧客向けの提案書を作らせたところ、提案の切り口や締めの一文のトーンまでエースのクセを再現してきました。本人が見たら困惑しそうなレベルです。
それでも80点です。ただ、80点の提案書が10分で出てくるなら、残りの20点を人間が磨けばいい。新人が3時間かけて作る60点の提案書より、よほど現実的な選択肢です。
Q05商談後のフォローメールも、AIで作れますか?
作れます。商談メモと顧客情報から、フォローメールを即座に生成できます。MITの研究には、問い合わせから5分以内にコンタクトした場合コンバージョン率が8倍以上になるという統計があり、フォローのスピードは成果に直結します。
商談後すぐ「今日の〇〇の件、こんな対応を考えています」というメールが届く体験は、顧客の印象に強く残ります。ただし注意点がひとつ。実際に「速すぎて怖い」と言われたことがあります。あえて30分ほど間を置く、「お話ししながら気になった点をまとめていました」と一言添える、といった人間っぽさの演出も大事です。
小ネタをひとつ。メールの開封率や返信率は曜日や時間帯で大きく変わることが複数の調査で分かっています。「いつ送るか」の判断まで顧客の行動パターンに合わせてAIに最適化させる使い方も始まっています。
よくある質問(FAQ)
- Q. 提案書づくりをAIに丸投げしてもいいですか?
- A. 丸投げは精度が落ちます。収集・分析・骨子・文面の4工程に分けて、それぞれの段階でAIを使うほうが一貫して精度が高くなります。
- Q. テンプレート型の営業支援ツールと何が違いますか?
- A. テンプレート型は会社名や業界の差し替えが中心です。生成AIは顧客のWebサイト・決算情報・商談履歴を読んで、提案の中身そのものを顧客ごとに組み立てられます。
- Q. 「営業は人間力」という考え方と矛盾しませんか?
- A. 矛盾しません。その人間力を発揮する時間が資料作成に食われていることが問題です。作成をAIに任せた分を、商談やフォローアップという人間にしかできない仕事に戻す話です。
- Q. 何から始めればいいですか?
- A. 過去に受注につながった提案書を2〜3本用意することからです。それをAIのお手本にすれば、チームの型として最初のドラフト生成をすぐ試せます。
AUTHOR

黛 政隆(まゆずみ まさたか)
株式会社GembaShift 代表取締役CEO
エンジニア歴20年、PM経験50件超。生成AIの導入を、現場に入って一緒に組む仕事をしています。 この記事の内容は、著者自身が実際に手を動かして業務で検証した実体験に基づいています。