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FIELD NOTES / AUTO SERVICE

車検・整備後の顧客説明はAIで作れるのか?──専門用語を「お客さん言葉」に変換する整備現場の実例

公開日 最終更新日 著者: 黛 政隆(株式会社GembaShift 代表取締役)

「フロントロアアームブッシュの経年劣化による弾性低下が確認されました」──この説明、お客さんが読んで意味が分かるでしょうか。

整備技術そのものにAIは要りません。エンジンの音から不具合を察知する経験と勘は、人間の仕事です。でも、専門知識をお客さんに伝わる言葉に変換する「翻訳」の仕事は、生成AIが最も得意とする領域です。

整備工場やディーラーのサービスフロントの方に向けて、私が実際に整備工場で試した入力と出力をそのまま載せながら解説します。

Q01整備後の顧客説明文は、生成AIで作れますか?

作れます。整備士のメモ書き程度の入力から、専門用語を使わない顧客向けの説明文を数秒で生成できます。私が整備工場で実際に試したところ、部品名・状態・費用目安を打ち込むだけで、アクション提案と費用感まで含んだ文章が出てきました。

入力はこれだけです。「左前ロアアームブッシュ経年劣化、走行に支障なし、次回車検時に要交換、交換費用目安12,000〜15,000円」。

出力はこうなりました。「前輪の足回りにある小さなゴム部品(ブッシュ)が少し傷んできています。今すぐ走行に問題はありませんが、次の車検(約2年後)の際に交換することをおすすめします。費用の目安は12,000〜15,000円程度です。気になることがあればいつでもお声がけください」。

専門用語ゼロ、アクション提案つき、費用感まで含んだ文章が数秒で出てきます。複数台・複数項目でも同じなので、車検シーズンに1日30台を捌く現場でも「書く時間」がボトルネックになりません。

Q02整備の仕事は、AIに向いていないのではないですか?

整備技術そのものについては、その通りです。車両の状態を肌感覚で判断する専門性はAIが代替できる性質ではありません。ただ「整備の仕事」を分解すると性質の違う業務が混在しており、その中に生成AIが最も活きる翻訳業務が含まれています。

  • ① 車を診る:整備士の専門性が最も必要。絶対に人間の仕事
  • ② 整備内容を記録する:事実を書き起こす作業。定型に近い
  • ③ お客さんに分かる言葉で説明する:最も「書けない・時間がかかる・スキルにバラツキが出る」業務
整備業務を3つに分解した図解(診る・記録する・説明する)
整備業務を3つに分解した図解(診る・記録する・説明する)

自動車整備士の有効求人倍率は5.28倍(令和6年度、厚生労働省)で、全職種平均の約4倍です。整備士がより多くの時間を「整備」に使えるかどうかが、死活問題になりつつある業界です。だからこそ、③の翻訳業務を生成AIに渡す価値があります。

Q03顧客向け説明文の質を上げるコツはありますか?

顧客の属性やトーンの指定をひとこと加えることです。「顧客は60代以上が多く、IT関連の説明は苦手」と加えると文体が自動で調整され、「修理を勧めているように聞こえないよう、情報提供のトーンで」と加えると押し売り感のないやわらかな文章になります。

実際、顧客属性を伝えたら「ローラーベアリング前輪」が「前輪のタイヤを支える軸受け」に変わりました。AIがちゃんと「誰に書くか」を意識して言葉を選びます。整備士が言葉選びに悩むあの時間が、かなり短縮できます。

自動車ディーラー側でも、「スタッフ向けの技術記録」と「顧客向けの説明文」を同じ入力から同時生成する設計の動きが出始めています。1つの記録から2つのアウトプットを出す ──これが現場の負荷を一番スムーズに下げる形だと考えています。

Q04複数店舗に横展開するときの注意点は何ですか?

「誰が何を見ていいか、最初に決めておく」ことです。顧客ごとの整備履歴や個人情報はその店舗だけがアクセスできる設計にし、良い説明文のパターンやよくある質問への答え方は全店で共有する。この2つを最初から分けて設計するかどうかで、横展開のスムーズさが大きく変わります。

5〜10店舗への横展開時に必ずぶつかるのが、「A店のベテランメカニックの顧客説明パターンをB店でも使いたい。でも顧客情報はA店だけが見える状態にしないといけない」という壁です。あとから「やっぱり分けたい」になると、かなり大変です。

もう一点、生成AIのシステムは自社のクラウド環境に構築することが大前提です。ベンダーのシステムの上にデータを置くと、契約終了時にデータが持ち出せない・監査対応ができないといった問題が出ます。導入時に「AIが動く場所」を確認する習慣をつけておくことをおすすめします。

よくある質問(FAQ)

Q. 整備士の仕事がAIに置き換わるのですか?
A. 置き換わりません。車を診る仕事は整備士の専門性そのものです。生成AIが引き受けるのは「書く仕事」、特に専門知識をお客さんの言葉に変換する翻訳業務で、整備士が整備に集中できる環境をつくる話です。
Q. 整備業界はデジタル化が遅れていると言われますが、AI導入は無理がありませんか?
A. 逆の見方をしています。曖昧な自然言語を扱う業務が多い業界だからこそ、生成AIとの相性が良い。「遅れている」のではなく「ちょうどいいタイミング」です。
Q. 何から始めればいいですか?
A. 整備後のお客様説明書の作成から小さく始めるのがおすすめです。入力は整備士のメモ書き程度で済み、効果がその日から体感できます。
Q. ベテランメカニックの説明ノウハウは店舗をまたいで使えますか?
A. 使えます。「良い説明文のパターン」は個人情報と切り分けて全店共有できるため、ローカルの名整備士のノウハウをチェーン全体の品質底上げに使えます。設計の問題として今すぐ考えられる話です。

AUTHOR

株式会社GembaShift 代表取締役CEO 黛 政隆

黛 政隆(まゆずみ まさたか)

株式会社GembaShift 代表取締役CEO

エンジニア歴20年、PM経験50件超。生成AIの導入を、現場に入って一緒に組む仕事をしています。 この記事の内容は、著者自身が実際に手を動かして業務で検証した実体験に基づいています。

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まず整備後のお客様説明書の作成から、小さく始めてみませんか。どの業務から手をつければいいか、実際の現場を見ながら一緒に考えます。