「現場は17時に終わるんだけど、そこから安全書類やKY記録を書き始めると、気づいたら19時半。毎日これなんですよ」──ある建設会社の現場所長の言葉です。
現場の安全を守るための書類のせいで、現場を見る人が帰れない。書類を減らすことはできません。でも、書類の「作り方」は変えられます。
建設会社の現場監督・経営層・DX推進担当の方に向けて、生成AIが安全書類の何を変えるのかを実例とあわせて解説します。
Q01建設現場の安全書類やKY記録は、生成AIで自動化できますか?
できます。現場監督が帰り際にスマホへ30秒話すだけで、KY活動記録のドラフトが出てくる段階に来ています。生成AIは音声・写真・過去データから現場の文脈を理解して、フォーマットに合った文書をまるごと生成できるからです。
イメージはこうです。「今日は3階スラブの型枠解体。クレーン使用。風が強かったから吊り荷の振れに注意した」──帰り際の30秒の音声だけで、KY活動記録のドラフトが出てきます。
しかも過去のヒヤリハット事例から「この作業で特に注意すべきリスク」まで引っ張ってきます。自分の経験だけでなく、会社全体の経験を踏まえた書類 が出てくるのが、テンプレートとの決定的な違いです。
発注者ごとに違う書式への対応も効きます。同じ入力から、A社向け・B社向けの書類をそれぞれの書式で一括生成できる。書式変換だけで30分かかっていた作業が、ほぼゼロになります。
Q02なぜ安全書類は、テンプレートの穴埋めでは時短できないのですか?
安全書類は工種・工程・天候・作業員・使用重機など、毎日変わる現場の状況を正確に反映する必要があるからです。枠だけ決まったテンプレートでは中身は毎回手入力のままで、負担の本体が残ります。生成AIが変えたのは自動化の「質」そのものです。

- Excelテンプレート:枠は決まっているが中身は毎回手入力。コピペで前回の天候が残る事故も起きる
- RPA:フォーマット変換はできるが、文章は書けない
- 生成AI:音声・写真・過去データから文脈を理解して、フォーマットに合った文書をまるごと生成できる
国土交通省のデータでは、建設業の年間労働時間は全産業平均より約90時間長く、現場からは「業務時間の3〜4割は書類」という声が出ています。2024年4月からは残業の上限規制も罰則付きで始まりました。書類の作り方を変えることは、もう選択肢ではなく必須の課題です。
Q03建設会社の生成AI導入事例はありますか?
あります。大成建設は2025年11月、図面や画像も理解できる生成AIで土木工事の施工計画書のドラフトを約10分で自動生成するシステムを発表しました(従来比約85%の時間削減)。北野建設は社内ナレッジをAIが参照できる形に構造化するプロジェクトを2024年12月に発表しています。
- 大成建設(2025年11月発表):発注情報と社内ナレッジを入れると約10分でWord形式の施工計画書原稿を自動生成。従来比約85%の時間削減。経験の浅い技術者でも使える
- 北野建設(2024年12月発表):国交省の公開資料や社内のヒヤリハット事例を、AIが参照できる形に構造化。社内に眠る知見をAIが「読める」ようにするアプローチ
- デジタル野帳×生成AI:厚労省が公開する約42万件の災害事例データベースをAIが横断検索し、その日の作業に合った事故リスクと対策を提示する動き
ベテランしか書けなかった計画書が仕組みでカバーできるようになった、という点が重要です。KY記録を「書く作業」から「考える作業」に変えていく動きが、各現場で始まっています。
Q04生成AIを現場で使えるようにするには、何が必要ですか?
やることは2つです。現場の状況(工種・天候・作業員・重機・過去のヒヤリハット)をAIに伝える仕組みを作ること。そして、社内に眠っているデータをAIが読める形にすることです。生成AIをポンと入れるだけでは「使える書類」は出てきません。
同じAIでも、渡す情報が違えば出力は別物になります。現場の状況をどう渡すかの設計が、出てくる書類の質を決めます。
過去のKY記録、ヒヤリハット報告、安全基準、発注者ごとのフォーマット。これらをAIが参照できるようにしておくだけで、 「うちの現場を知っているAI」 になります。
このアプローチはAI自体を作り替えるわけではないので、新しいモデルが出ればすぐその恩恵を受けられます。長い目で見ると、ここが一番大きい利点かもしれません。
よくある質問(FAQ)
- Q. 安全書類そのものを減らすことはできないのですか?
- A. できません。安全書類は手を抜けないからこそ時間がかかります。減らせないからこそ、書類の「作り方」を変えることに意味があります。
- Q. 音声入力は、どのくらい話せばいいのですか?
- A. 帰り際の30秒程度で足ります。工種・使用重機・その日注意した点を話すだけで、KY活動記録のドラフトが生成されます。
- Q. AI任せにすると、KY活動が形骸化しませんか?
- A. むしろ逆の動きが起きています。厚労省の約42万件の災害事例データベースをAIが横断検索し、その日の作業に合ったリスクを提示することで、KY記録が「書く作業」から「考える作業」に変わりつつあります。
- Q. 何から始めればいいですか?
- A. 「今、一番面倒な書類は何か」を1つ決めることからです。そこから逆算して、AIに何を読ませて何を出すかを設計するのが最短ルートです。
AUTHOR

黛 政隆(まゆずみ まさたか)
株式会社GembaShift 代表取締役CEO
エンジニア歴20年、PM経験50件超。生成AIの導入を、現場に入って一緒に組む仕事をしています。 この記事の内容は、著者自身が実際に手を動かして業務で検証した実体験に基づいています。