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FIELD NOTES / CONTRACT REVIEW

契約書レビューにAIは使えるのか?──3ヶ月使って踏んだ3つの落とし穴と、それでも手放せない理由

公開日 最終更新日 著者: 黛 政隆(株式会社GembaShift 代表取締役)

「第12条の損害賠償条項にリスクがあります」。AIからそう返ってきたとき、正直ちょっと感動しました。ちゃんと読めてるじゃん、と。ところが実際の契約書を見ると、第12条は反社会的勢力の排除条項。損害賠償は第14条でした。

契約書レビューにAIを使いはじめて3ヶ月で踏んだ「落とし穴」の話をします。先に言っておくと、3ヶ月経った時点で、AIなしに戻る気はゼロです。でも最初の1ヶ月はヒヤリとする場面もありました。

法務部がないのに、「ちょっと見ておいて」で月に何十本も契約書チェックが総務に回ってくる。そんな会社の方にこそ読んでほしい話です。

Q01契約書レビューにAIは使えますか?

使えます。ただし「見落としゼロを保証するツール」としてではなく、「見落としリスクを大幅に下げるアシスタント」としてです。NDA(秘密保持契約書)なら、30〜40分かけていた赤ペンチェックが15分程度に縮みます。この割り切りができるかどうかが分かれ目です。

最初に手元のNDAを読ませたときは、「損害賠償の上限が設定されていない」「秘密保持期間の終了後の取り扱いが不明確」と、なかなか的確な指摘が返ってきました。これは革命だと思いました。

ただ、その後の3ヶ月で落とし穴を3つ踏みました。落とし穴を知ったうえで使えば、法務部がない会社にとってAIは「もう一人の目」になります。

Q02AIの契約書レビューには、どんな落とし穴がありますか?

3つあります。①条文番号の間違いや存在しない判例の引用(ハルシネーション)②「全部任せる」と重要でない指摘が大量に出て、レビュー時間がかえって倍になる ③NDAでうまくいった精度が、業務委託や売買契約ではバラつく(テストの精度は本番の精度ではない)。

  1. AIがもっともらしい嘘をつく:自信たっぷりに条文番号を示しながら、その番号が間違っていることがある。存在しない判例を引用してきたこともある
  2. 「全部任せたい」が一番危ない:曖昧な表現・不十分な定義といった軽微な指摘が大量に出て、全部確認するとレビュー時間が倍になる
  3. テストの精度は本番の精度ではない:NDAは構成がほぼ決まった定型文書。業務委託や売買契約は千差万別で、1種類の成功で「全部いける」と思うと痛い目を見る

ハルシネーションの怖さは実例があります。2023年にアメリカで起きたMata v. Avianca事件では、弁護士がAIの作った架空の判例を裁判所に提出して、5,000ドルの制裁金を科されました。契約書レビューでは、ここへの対策が必須です。

Q03AIの間違いは、どこまで許容すればいいですか?

「どこまでの間違いなら許容できるか」を先に決めます。条文番号のズレは自分で確認すればいいので許容、「リスクがないのにある」という空振りも害が少ないので許容、「リスクがあるのに指摘なし」だけは絶対NG。つまり見落としを減らす方向に振るのが軸です。

  • 条文番号のズレ → 自分で確認すればいい。許容OK
  • 「リスクがないのにある」と言われる → 空振りだが害は少ない。許容OK
  • 「リスクがあるのに指摘なし」 → いちばん怖い。絶対NG

完璧を求めるのではなく、「見逃し」を減らすアシスタントとして使う。この割り切りができてから、かなり楽になりました。

Q04指摘のノイズを減らして、精度を上げるコツはありますか?

2つあります。①「発注者側の立場で読んでください」と立場を明示する ②自社で気をつけるべき項目を5〜10個リスト化して先に渡す。さらに全件を同じ精度で見ず、軽いモデルで全体をざっと見てから、気になる条項だけ高精度なモデルで深掘りする2段構えが有効です。

立場の明示は、最初の1週間で学んだコツです。「この契約書をレビューして」だけだと、どの立場のリスクなのか曖昧な指摘が返ってきます。立場を書くだけで、指摘の精度がまるで変わります。

チェックリストの先渡しは、地味ですが効果絶大でした。「以下の観点で確認してください」とリストを添えるだけでノイズが激減します。「何でもいいから見て」だとAIも困る。人間と同じです。

Q05契約書AIレビューの運用フローは、どう組めばいいですか?

4ステップです。①自社チェックリスト10項目に沿ってAIに確認を依頼 ②「該当する条文をそのまま引用して」と指示 ③人間がざっと確認(15分が5分に短縮)④迷うものだけ外部弁護士に相談。ポイントは②で、原文を引用させると引用の正誤を一瞬で照合でき、条文番号の間違いをほぼ防げます。

契約書AIレビューの4ステップ運用フロー図
契約書AIレビューの4ステップ運用フロー図

この運用に落ち着いてから、外部弁護士への相談は月8〜10件から3〜4件に減りました(体感値です)。AIが全部解決したのではなく、 「弁護士に聞くべきもの」と「自分で判断できるもの」の仕分けが速くなった というのが正確なところです。

広げ方にもコツがあります。テストの目的を「成功の確認」から「失敗の発見」に切り替えて、まずNDAだけで運用し、安定したら業務委託に広げる。一気にやると「やっぱりAI使えないね」で終わります。段階的にやるから、ちゃんと育てられます。

よくある質問(FAQ)

Q. AIを使えば、弁護士への相談は不要になりますか?
A. なりません。実際に減ったのは相談件数で、月8〜10件が3〜4件になりました(体感値)。AIの価値は「弁護士に聞くべきもの」と「自分で判断できるもの」の仕分けが速くなることで、迷う案件は今も外部弁護士に相談しています。
Q. どの契約書から始めればいいですか?
A. 構成が定型的なNDA(秘密保持契約書)からです。NDAで運用を安定させてから、業務委託・売買のような千差万別の契約類型に段階的に広げます。1種類の成功で全類型にいけると思うのが典型的な失敗です。
Q. AIが引用してきた判例は信じていいですか?
A. 鵜呑みにしてはいけません。存在しない判例を引用してくることが実際にあり、米国では弁護士が架空判例を裁判所に出して制裁金を科された事件(Mata v. Avianca・2023年)もあります。「該当箇所をそのまま引用して」と指示して原文と照合するのが対策です。
Q. 法務の専門知識がなくても使えますか?
A. 使えます。法務部がない会社にとってAIは、自分だけでは気づかないリスクを指差してくれる「もう一人の目」です。大事なのは「任せる」ではなく「一緒にやる」感覚。まず自社の契約書を5本読ませてみると、出発点が見えてきます。

AUTHOR

株式会社GembaShift 代表取締役CEO 黛 政隆

黛 政隆(まゆずみ まさたか)

株式会社GembaShift 代表取締役CEO

エンジニア歴20年、PM経験50件超。生成AIの導入を、現場に入って一緒に組む仕事をしています。 この記事の内容は、著者自身が実際に手を動かして業務で検証した実体験に基づいています。

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