生成AIの話なのに、AIがほとんど活躍しない話をします。
AIに仕事を任せるには、まず人間がその仕事を言語化する必要があります。ところがこの「教える準備」を始めると、現場で不思議なことが起きます。誰も疑わなかった手順の「なぜ?」が、止まらなくなるのです。
AI推進担当・経営企画・業務改善の担当の方に向けて、AI導入の準備そのものが強力な業務改善になるという逆説を書きます。
Q01AI導入の準備だけで業務改善になるというのは、本当ですか?
本当です。私の体感では、AI導入プロジェクトで実現した効率化の中身を分解すると、AI自体の処理による効率化と、準備段階で業務を整理したことによる効率化が、だいたい半々です。つまりAIを入れる「準備」だけで、業務改善の半分は終わっています。
逆に言えば、AIの導入に踏み切れなくても、準備だけで元が取れる ということでもあります。
だから私は、生成AIの導入相談を受けたとき「まず業務を教えてもらえますか」から始めます。AIを入れるかどうかは、その後で考えればいい。教えてもらう過程で、すでに改善は始まっているからです。
Q02AIに業務を教えようとすると、現場で何が起きるのですか?
説明している本人が「これ、なんでやってるんだっけ」と言い出します。ある現場では、ベテランに手順を聞き始めて20分で「前のシステムのときに必要だった確認作業」「フォーマットが変わったのに手順書はそのままの取引先対応」が次々と見つかり、一番驚いていたのはご本人でした。
こうしたものは、日常の中にいると見えません。毎日やっていると、当たり前になってしまうからです。
ところが「AIに教える」という視点が入った瞬間、全部あぶり出されます。AIは空気を読まないので、「なぜこの手順が必要なのか」を言語化できなければ教えようがない。その「教えようがない」が、見直しのサイン です。
Q03現場に眠る「謎ルール」には、どんなパターンがありますか?
何社かで同じ言語化をやると、だいたい5パターンに集約されます。前のシステムの亡霊、一度だけ起きた事故への過剰防衛、同じ情報の3重入力、誰も検証していない「俺ルール」、誰も読んでいない報告書、の5つです。

- 前のシステムの亡霊──システムは3年前に入れ替わったのに、手順だけ前のシステム時代のまま。理由を聞くと「なんとなく」。一番多いパターン
- 一度だけ起きた事故への過剰防衛──5年前に1回だけ起きたミスへのチェック作業が、原因が別の場所で対策済みの今も残り続けている
- 同じ情報の3重入力──Excelに書いて、基幹システムに入力して、メールでも報告。全員がそれを「仕事」だと思っている
- 誰も検証していない「俺ルール」──Aさんのやり方とBさんのやり方が違い、どちらが正しいか誰も確かめたことがない
- 誰も読んでいない報告書──毎週30分かけて作るレポート。「誰が読んでいますか?」と聞くと沈黙が返ってくる
Q04「業務を棚卸ししましょう」では動かない現場が、なぜAIの準備だと動くのですか?
目的が「改善」ではなく「AIに教える」に変わると、作業を説明すること自体が前向きな行為になるからです。説明する相手がAIだというだけで、「自分のやり方を否定されるのでは」という警戒が薄れ、人は業務の見直しにオープンになります。
「業務フローを書き出してください」と言われて喜ぶ現場の人は、残念ながらいません。自分の仕事のやり方を評価される場に聞こえるので、防衛的になるのが自然です。
ところが「生成AIに仕事を任せる準備をしましょう」と言うと、空気が変わります。「AIにどう教えたら伝わるかな」という発想で話してくれるから、防衛的にならない。これは何度か経験して確信しました。
Q05業務の言語化は、何から試せばいいですか?
15分の言語化実験です。いちばん面倒だと思っている業務を1つ選び、入社1日目の新人に説明するつもりで手順を書き出してください。おそらく「あれ、この手順いるんだっけ?」が2〜3個見つかります。それだけでもう、業務改善のタネです。
ポイントは「入社1日目の新人に」です。前提知識ゼロの相手に伝わるように、「ここでアレをやる」のような省略なしで、全部言葉にします。
コツをひとつ。書き出すときに「なぜこの手順が必要か」を横に書き添えると、謎ルールの発見率が格段に上がります。理由が書けない手順は、ほぼ確実に見直し対象です。
よくある質問(FAQ)
- Q. この過程で、生成AIは何をしているのですか?
- A. ほとんど何もしていません。AIが1行も出力しなくても、「AIに教える」という視点が組織の棚卸し装置として機能します。生成AIは答えを出す道具であると同時に、問いを立てる装置でもあります。
- Q. 見つかった謎ルールは、すぐ廃止していいですか?
- A. 理由を確かめてからです。過剰防衛型のチェック作業のように、元の原因がすでに別の場所で対策済みかを確認すると判断しやすくなります。理由が言語化できない手順は、見直しの最優先候補です。
- Q. 従来の業務改善活動と、何が違うのですか?
- A. 手法よりも現場の心理が違います。目的が「AIに教える」になると、説明が前向きな行為に変わり、現場の協力が得られやすくなります。同じ棚卸しでも、入口の設定で出てくる情報の量が変わります。
- Q. 結局AIを導入しないと、損になりますか?
- A. 準備だけでも効率化の約半分は回収できるので、損にはなりません。まず業務を言葉にし、AIを入れるかどうかはその後で判断すれば十分です。
AUTHOR

黛 政隆(まゆずみ まさたか)
株式会社GembaShift 代表取締役CEO
エンジニア歴20年、PM経験50件超。生成AIの導入を、現場に入って一緒に組む仕事をしています。 この記事の内容は、著者自身が実際に手を動かして業務で検証した実体験に基づいています。