「生き残りたければ、AIを使いこなせ」──私はこの言葉を、ずっと言い続けてきました。今日はそれを、少し訂正します。
社内AI導入で本当に足りないのは、AIを使える人ではありません。 業務を説明できる人 です。この人がいれば、AIを触ったことのない社員でも導入プロジェクトの主力になれます。
AI導入を任されたものの「うちの社員はAIが使えない」と頭を抱えている方に向けて、企業の現場に社内ナレッジAIを入れて答えが出るまで面倒を見ている株式会社GembaShift代表の黛(まゆずみ)が、現場でよく受ける疑問に順番に答えます。
Q01社内AI導入で本当に足りないのは、AIを使いこなせる人材ですか?
いいえ。AIを使いこなせる人は間違いなく貴重ですが、それは1種類目にすぎません。上流工程以外のコーダーという職が消え、事務職まで同じ波が届いている今、需要が増す人は2種類あり、本命は「業務を説明できる人」です。導入の現場で足りないのは、ほぼ例外なくこちらでした。

左の「AIを使いこなす人」は、いてくれたら心強い存在です。ただし、育てられるとは限りません。私自身、社内でAIを勧めて、どうしても手が伸びない人を何人も見てきました。
本命は右の 「業務を説明できる人」 です。誰でもできそうに見えて、実際にできる人は驚くほど少ない。ここが社内AI導入の一番のボトルネックだ、というのが現場での私の結論です。
Q02「全社員がAIを使いこなせるようになるべき」という方針は、現実的ですか?
現実的ではない、というのが私の実感です。AIを使いこなせるかどうかには、向き不向きがあります。私はたまたまエンジニアだったから使いこなせる側に回れただけで、ITが苦手な人や興味を持てない人に同じことを強要はできません。手が伸びない社員に問題があるわけではなく、合う合わないの話です。
AIを使いこなす人が貴重であることは、今も変わりません。それでも、社内でAIを勧めてどうしても手が伸びない人を何人も見てきて、 使いこなせるかどうかには向き不向きがある と本気で思うようになりました。
だから、導入計画を「全社員のAIスキル向上」から始めると、入り口で止まります。順番が逆です。先に見つけるべきは、次の質問で説明する「業務を説明できる人」です。
Q03「業務を説明できる人」とは、具体的にどんな人ですか?
手順を暗記している人ではありません。「なぜその作業をやるのか」「どういう出力が望ましいのか」を語れる人です。たとえば見積のチェックで「この項目を見る」だけなら誰でも言えますが、「なぜこの客先だけ単価を疑うのか」「何が揃っていればOKと言えるのか」まで説明できる人は、部署に一人いるかどうかです。
| 観点 | 手順を暗記している人 | 業務を説明できる人 |
|---|---|---|
| 語れること | 「この項目を見る」という手順 | 「なぜこの客先だけ単価を疑うのか」という理由 |
| OKの基準 | 決まったとおりに終えたかどうか | 「何が揃っていればOKと言えるのか」を言語化できる |
| 社内での希少性 | 珍しくない | 部署に一人いるかどうか |
正直に書きます。AIをどれだけ使いこなせても、私には絶対にできないことがあります。 その業務が、どういう手順で実施されるべきかを定義すること です。
これがないと、資料をどう整理すればいいかも決まりません。職人技の再現はAIの賢さより資料整理で決まりますが、その整理の方針を決められるのは、業務を知っている人だけです。
Q04その人がAIを使えなくても、導入プロジェクトの主力になれますか?
なれます。私が現場で一番嬉しかった瞬間のひとつが、AIを一度も触ったことのない方が導入プロジェクトの主力になったときです。その方に業務の手順と望ましい出力を語ってもらい、AI側は私が形にする。この役割分担が成立した途端、導入の進み方が変わりました。
分担はシンプルです。業務を説明できる人が「なぜやるのか」「何が望ましい出力か」を語る。AIを扱える側が、それをAIの設定と資料の整理に落とし込む。どちらか一方では成立しません。
そして、意外なことがもうひとつ起きます。導入した後、 AIを一番使いこなすのも、この人 なんです。
AIの挙動に問題が出て調整が要るとき、効くのは業務の「なぜ」と「望ましい出力」を知っている人です。知らない人は「なんか違う」までしか言えませんが、知っている人は「この場合はこの資料を先に見てほしい」と、直し方まで指示できます。AIの操作は覚えれば済みますが、この判断は覚えて済むものではありません。
Q05「説明できる人」が不在のまま導入を始めると、どうなりますか?
遠回りになります。私自身の失敗談ですが、説明できる人が不在のまま始めた現場では、資料を集めて、整理して、AIに答えを出させて、「これじゃない」と言われる繰り返しでした。何が正解かを誰も言語化できないので、正解に近づいているのかすら判定できません。技術の問題ではなく、運用設計の問題でした。
AI導入の失敗というと、AIの性能や費用の話になりがちです。でも私が現場で経験したつまずきは、そこではありませんでした。不在のまま進めると、こういう循環に入ります。
- 資料を集めて整理し、AIに答えを出させる
- 現場から「これじゃない」と言われる
- 何が正解かを、誰も言語化できない
- 正解に近づいているのかすら、判定できない
この循環に入ると、AIの賢さをいくら上げても抜け出せません。先に「この業務を説明できる人は誰か」を決めておくことが、遠回りを防ぐ一番の保険です。
Q06社員がAIを使えない会社では、AI導入の準備をどう進めればいいですか?
やることは3つです。①全業務について「この業務を説明できる人は誰か」を書き出す。②名前が空欄になった業務は、説明できる人を育てるかどうかを決める。③社内のAI学習は、その後で十分。ここまでに、AIの知識は一切要りません。

見積、受注処理、検査、クレーム対応。全業務を並べて名前を書き出してみると、空欄になる業務が必ずいくつか出てきます。まずその空欄を見つけることが、準備の第一歩です。
空欄になった業務は、説明できる人を育てるかどうかを決めます。決められない業務は、AI化の順番を後ろに回して構いません。
育てるといっても、文書にまとめてもらう必要はありません。口で説明してもらって文字起こしを渡せば、手順書の下書きくらいはAIが作ります。求めているのは文章力ではなく、 語れること です。
よくある質問(FAQ)
- Q. AIに手が伸びない社員に、無理にでも使わせるべきですか?
- A. おすすめしません。AIを使いこなせるかどうかには向き不向きがあり、合う合わないの話です。手が伸びない社員に問題があるわけではありません。その社員が業務を説明できる人なら、AIを触らないまま導入の主力になる道があります。
- Q. 「説明できる人」がいない業務は、AI化をあきらめるべきですか?
- A. あきらめる必要はありませんが、順番は後ろに回して構いません。先に説明できる人がいる業務から導入し、空欄になった業務は育てるかどうかを決めます。決められないまま無理に先行させると、正解を誰も言語化できず遠回りになります。
- Q. 「説明できる人」を育てるには、本人に手順書を書いてもらう必要がありますか?
- A. ありません。口で説明してもらい、その文字起こしをAIに渡せば、手順書の下書きくらいはAIが作ります。求めているのは文章力ではなく、「なぜその作業をやるのか」「どういう出力が望ましいのか」を語れることです。
- Q. 社員向けのAI研修や教育に、先に予算をかけるべきですか?
- A. 先にかける必要はない、というのが私の考えです。社内のAI学習は、「説明できる人」の書き出しと育成方針が決まった後で十分です。GembaShiftは非エンジニア向けの無償学習サイト(learn.gembashift.com)を公開しており、順番が来たらここで足りるはずです(2026年時点)。
AUTHOR

黛 政隆(まゆずみ まさたか)
株式会社GembaShift 代表取締役CEO
エンジニア歴20年、PM経験50件超。生成AIの導入を、現場に入って一緒に組む仕事をしています。 この記事の内容は、著者自身が実際に手を動かして業務で検証した実体験に基づいています。