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FIELD NOTES / PHARMACY

薬歴作成はAIで時短できるのか?──「書かない薬歴」が現実になった調剤現場の数字

公開日 最終更新日 著者: 黛 政隆(株式会社GembaShift 代表取締役)

19時に閉局したはずの薬局で、3人の薬剤師がパソコンに向かっている。画面に映っているのは電子薬歴。「あと何件?」「15件くらい」──ある調剤薬局チェーンの店舗で、私が実際に見た光景です。

薬剤師の残業の正体を分解すると、その中心に「薬歴を書く仕事」があります。この構造を変え始めているのが、生成AIによる「書かない薬歴」です。

調剤薬局の経営者・チェーン薬局本部の方に向けて、薬歴残業の構造と、生成AI薬歴支援の実際の数字を解説します。

Q01薬歴作成は、生成AIで時短できますか?

できます。会話の意味を理解してSOAP形式に構造化する生成AIの薬歴支援により、薬歴の下書きは服薬指導の会話から十数秒で完成する段階に来ています。ウィーメックスの実証では1件あたりの記載時間が約6割減り、日本調剤は2025年5月に全763店舗への導入を発表しました。

生成AIの薬歴支援とは、患者との会話を録音して文字にするだけでなく、会話の意味を理解してSOAP形式の薬歴に構造化する 仕組みのことです。不要な雑談はカットし、薬名・数値・病名は正確に抽出します。

  • 薬剤6種未満の処方:記載時間 3.9分 → 1.5分(61.5%削減)
  • 薬剤6種以上の処方:記載時間 6.3分 → 2.0分(68.3%削減)
  • (ウィーメックスがAzure OpenAI Serviceを使って実証した結果)

日本調剤は2025年5月、全763店舗への生成AI薬歴支援の導入を発表しました。先行50店舗で効果を確認してからの全店展開です。763店舗が動いたという事実が、もう実験段階ではないことを示しています。

Q02なぜ薬剤師の残業は減らないのですか?

残業の正体の大部分が薬歴記載だからです。厚労省のタイムスタディによると、薬歴記載時間は1日平均1時間25分で業務全体の約15%を占めます。忙しい日は投薬が優先されて薬歴が後回しになり、閉局後にまとめて書く「薬歴残業」が常態化します。

処方箋1枚あたりの処理時間は平均12分41秒(調剤・鑑査・投薬・薬歴すべて含む)。薬剤師1人あたり1日40枚が法定の配置基準です。限られた時間で服薬指導も薬歴も全部やろうとすると、どこかが溢れ、溢れた先が閉局後の残業になります。

厄介なのは、2024年の調剤報酬改定で「対人業務の充実」が強く求められるようになったことです。患者との会話にもっと時間を使ってほしいと制度が後押ししているのに、その会話を記録する作業が時間を食っている。構造的に矛盾しています。

薬剤師の離職理由では「残業が多い」「業務量が多い」が上位に入り、採用サイトの口コミでは「薬歴が終わらない」という声が目立ちます。辞める理由の中心に「書く仕事」がある のです。

Q03従来の音声入力と、生成AIの薬歴支援は何が違いますか?

従来の音声入力は、話した言葉がそのまま文字になるだけでした。「えーっと」も雑談も全部入り、手直しの手間が残るため、トータルの負担はあまり変わりませんでした。生成AIは会話の意味を理解して構造化するため、「音声が文字になる」のとはまったく別の技術です。

方式できること限界
従来の音声入力話した言葉をそのまま文字化雑談も言い淀みも全部入り、手直しが発生
テンプレート選択式定型文の組み合わせで時短40人いれば40通りの事情がある患者に定型で対応するのは無理がある
生成AI薬歴支援会話の意味を理解しSOAP形式に構造化、薬名・数値・病名を抽出最終確認は薬剤師が行う前提
従来の音声入力と生成AI薬歴支援の違いを示す図解
従来の音声入力と生成AI薬歴支援の違いを示す図解

Q04生成AI薬歴支援のコストは、どのくらいかかりますか?

既存の電子薬歴システムへのアドオンとしてSaaS提供されるものが主流で、具体的な月額は各社への問い合わせになります。裏側のAI処理コストは1件あたり数円〜数十円レベルで、薬剤師の残業代と比較すると投資対効果は明確です。

  • 1日40件 × 月22日 = 月880件
  • AI処理コストを仮に1件10円とすると → 月8,800円
  • 薬剤師の時給(概算3,000〜4,000円)× 残業1時間/日 × 22日 → 月6.6〜8.8万円の残業代

SaaSの月額費用はAI処理コストだけではありませんが、「薬剤師の残業代と比較してどうか」という視点で見ると桁が違います。薬局のSOAP記載ルールや良い薬歴のサンプルは患者が変わっても同じなので、一度だけAIに読み込ませて使い回せば、コストはさらに下がります。

ただし正直に言うと、導入して即効果が出るかは現場次第 です。電子薬歴システムとの連携、薬剤師が新しいワークフローに慣れる時間、AIの下書きをどこまで信頼するかの線引き。技術より運用の設計が効果を左右します。

Q05薬歴の時短以外に、服薬指導はどう変わりますか?

患者の属性・処方内容・過去の指導実績から、次にその患者へ何を伝えるべきかをAIが個別に提案できるようになります。さらにメモを取らなくてよくなる分、患者の顔を見て話せる時間が増えます。

1日40人の患者は、処方も既往歴も生活背景も全員違います。テンプレートを当てはめるだけでは「一般的な指導」の域を出ません。生成AIは患者ごとの文脈を読んで個別のチェックポイントを瞬時に出せる。個別対応を大量に生成できる という生成AIの本質的な強みが活きる場面です。

会話ログが溜まると「こういう質問をする患者さんが多い」というパターンも見えてきます。指導の質を改善するためのデータが、日々の業務から自然に蓄積されていく。書かなくていい分、もっと良い指導ができる好循環です。

よくある質問(FAQ)

Q. 薬剤師不足なら、まず採用を増やすべきではないですか?
A. 薬剤師の有効求人倍率は約2倍で、採用そのものが不可能なわけではありません。問題は「採用しても辞める」こと。辞める理由の中心に薬歴残業があるため、書く仕事を減らすことが定着の対策になります。
Q. AIの下書きは、そのまま薬歴として使っていいですか?
A. 最終確認は薬剤師が行う前提です。「AIの下書きをどこまで信頼するか」の線引きを導入時に決めておくことが、運用設計のカギになります。
Q. AIは薬歴の記載ミスの確認にも使えますか?
A. 使えます。生成AIに「このSOAP、薬学的に違和感のある表現はある?」とセルフチェックさせると、アレルギー歴と処方内容のずれのような、人間が見落としがちな矛盾に気づくヒントになります。下書きと確認の二段構えが効きます。
Q. 時短勤務の薬剤師が多い薬局でも効果はありますか?
A. むしろ効果が大きいです。薬剤師の約70%は女性で時短勤務の方も多く、限られた稼働時間から書く仕事を取り除くことが、そのまま服薬指導に使える時間の確保につながります。

AUTHOR

株式会社GembaShift 代表取締役CEO 黛 政隆

黛 政隆(まゆずみ まさたか)

株式会社GembaShift 代表取締役CEO

エンジニア歴20年、PM経験50件超。生成AIの導入を、現場に入って一緒に組む仕事をしています。 この記事の内容は、著者自身が実際に手を動かして業務で検証した実体験に基づいています。

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