「あの商品の在庫ある?」「A社に去年納めたやつの型番、分かる?」──外回りの合間に、営業がスマホで社内に電話する。卸売や専門商社なら、毎日の景色だと思います。
正直に言うと、私も最初は「検索の仕組みさえ良くすれば解決する」と思っていました。実際にやってみたら、問題はそこではなかった。
営業の社内問い合わせを減らす設計と、精度が出ないときに「検索より先に見るべき場所」の話をします。
Q01営業担当からの社内問い合わせ電話は、AIで減らせますか?
減らせます。営業が社内に電話するのは、サボりではなく「分かる人に聞くのが最速だから」です。生成AIの「意味で探せる検索」を入れると、曖昧な言い方のまま自分で情報にたどり着けるようになり、聞く側も聞かれる側も問い合わせ対応から解放されます。
取扱商品が5,000点を超えると、1人の営業が全商品を把握するのは物理的に無理です。Excelの商品マスタや基幹システムに情報はある。あるけれど、外出先でそれを探す手間を考えたら「分かる人に聞くほうが早い」が正解になってしまう。これは個人の怠慢ではなく、仕組みの問題です。
数字も挙げておきます。ある大手CRMベンダーの2024年調査では、営業担当者が顧客対応に使えている時間は業務時間の 54% にとどまります。別の調査では、実際のセールス活動に使える時間は全体の約30%。残りは社内業務に消えています。そして「分かる人」の側──事務や管理部門も、同じ質問を1日に何十回も受けて消耗しています。
Q02Excelにも基幹システムにも情報はあるのに、なぜ営業は探せないのですか?
従来のキーワード検索は「ステンレス丸棒 SUS304 φ20」と正確に入力しないとヒットしないからです。営業の頭にあるのは「先月A社に納めたステンレスの丸い棒、あのサイズのやつ」という曖昧な記憶。この2つの間に埋められない溝がありました。生成AIの検索は、曖昧な言い方をそのまま入り口にできます。

実務的なポイントをひとつ。「在庫は何個?」のような数値を問う質問と、「前に似たのなかった?」のような意味を問う質問は、検索の方法を分けたほうがいい です。数値はデータベースに直接聞き、意味は文書をAIで検索する。この使い分けを最初の設計に入れるかどうかで、精度がまったく変わります。
Q03AI検索の精度が出ないとき、何を確認すればいいですか?
検索アルゴリズムを疑う前に、検索以前のところを順番に見てください。①そもそも答えとなる情報が入っているか、②情報が複数の資料に分断されていないか、③その次にやっと検索の設定、④最後にモデルの性能です。多くの場合、①と②の確認だけで精度は劇的に上がります。
私が実際にナレッジ検索の仕組みを作ったときも、最初の精度は使い物になりませんでした。検索のチューニングを一生懸命やっても良くならない。ふと立ち止まって検索以前を見直したら、原因は検索と関係ないところにありました。

①は確認すると「その情報はまだ入っていませんでした」で終わることが驚くほど多いです。ある企業の検証では、ナレッジ検索の初期評価で「良い回答」が全体の3分の1程度にとどまったというデータもあります。入れるだけでは動かない、というのはこういうことです。
Q04仕入値や与信情報が、見せてはいけない部門に見えてしまいませんか?
権限設計を最初から入れれば防げます。卸売・商社には、営業部門間でも共有すべきでない情報(仕入値・取引条件・与信情報)があります。部門ごとのアクセス権限をAI検索にまで反映させる設計は、後付けだとシステム全体の作り直しになりやすく、最初から入れておけば追加コストはわずかです。
AI検索を入れて便利になった途端、「東京営業部の取引条件を大阪のメンバーがAIに聞いたら、答えてしまった」という事故が起きえます。 「あとで考える」が一番高くつくポイント です。

データの置き場所も大事です。取引データの外部流出が心配な商社・卸売では、データもシステムも自社のクラウド環境に置く設計が大前提になります。
Q05基幹システムやExcelを入れ替える必要はありますか?
ありません。既存の基幹システムやExcelを捨てず、裏側でAIが動く設計にすれば、営業は今まで通りのツールを使いながら検索だけがAIに変わります。新しいシステムの使い方を覚える必要がないので、現場の抵抗感が格段に減ります。
大規模なシステム投資から始める必要もありません。今あるExcelと基幹システムを活かしたまま、小さく始められます。まず、自社の営業が1日にどんな問い合わせを何回しているか、1週間だけ記録してみてください。それだけで、どこにAIを入れれば一番効くかが驚くほど見えてきます。
よくある質問(FAQ)
- Q. 営業教育やマニュアル整備で解決できませんか?
- A. 難しいと思います。取扱5,000点超の商品知識を教育で頭に入れるのは物理的に無理があり、探す手間が聞く手間を上回る限り電話は続きます。情報を「検索できる形」に変えるほうが構造的な解決になります。
- Q. 問い合わせを受ける事務スタッフ側のメリットはありますか?
- A. 大きいです。同じ質問を1日に何十回も受ける割り込み対応が減り、本来の業務に集中できるようになります。聞く側と聞かれる側の両方が消耗する構造そのものが解消されます。
- Q. 何から始めればいいですか?
- A. 営業が1日にどんな問い合わせを何回しているかを、1週間だけ記録することからです。大規模投資の前に、どこにAIを入れれば一番効くかをその一覧で見極めます。
- Q. 検索精度はアルゴリズムの改善で上げるものではないのですか?
- A. 多くの場合、先に見るべきは情報の中身です。答えが未登録だったり、複数資料に分断されていたりする状態では、どんなアルゴリズムでも精度は出ません。検索の改善が効くのはその後です。
AUTHOR

黛 政隆(まゆずみ まさたか)
株式会社GembaShift 代表取締役CEO
エンジニア歴20年、PM経験50件超。生成AIの導入を、現場に入って一緒に組む仕事をしています。 この記事の内容は、著者自身が実際に手を動かして業務で検証した実体験に基づいています。